三郎事件簿その8
「僕も忙しいので」

(文責・ボーン助谷)

第2期おとぼけの話である。Horn SectionはSax兼Voでウシャコダの藤井“ヤクハチ”康一という相棒が見つかり、どうせだったらTpも入れようということになり、尊敬する兼崎“ドン平”順一大先生の紹介で音大を出たばかりの佐々木史郎が参加した。そうなると早々に親睦会というか飲み会を催す必要が出て来た。どうしてだろう?まあいいか。

宴?では管楽器奏者ならではの話題もあり、3人で盛り上がっていると三郎がちょっかいを出して来た。

「佐々木!おめぇドン平さんの後輩か?俺あんなにウマいラッパみたことねぇぞ。でもあのオヤジもよぉ、昔は頭にツノ生えたヘルメットかぶってラッパぐるぐる回しちゃってよぉ。ギャハハ」

ちなみに三郎が指摘しているのは、ドン平さんが昔やっていたバンド「スペクトラム」の事を言っている。しかしどうも目が座り始めている。怪獣1歩手前だ。こりゃマズイ!

「三郎!大先輩のドン平さんの後輩なんだから失礼な事言うなよ!今日初めて顔合わせしたんだしよぉ」

「ウルセェ!オレだってドン平さんの事は大好きだ!あんないいオヤジいねえぞ!そのくらい判ってら!ウマ!」

みたいな会話が続き、初対面にもかかわらず好青年の佐々木はなんでも「はい。はい。」と素直に答えていた。その後、叩き上げ2人が音大卒の佐々木にアカデミックな質問をして盛り上がっていると、三郎が俺の右腕を何度も殴りながら

「バカヤロー!ドリアンだかメクソだか知らねぇが、おめぇ達ワカンねぇ話してんじゃねぇよ!」

「いやいや三郎さん。それはドリア旋法、ミクソドリア旋法と言ってですね」

「そのくらい知ってらぁバカにすんじゃねぇ!バラック時代のよぉ」

「いやいや三郎さん。それはバロック時代の間違いで」
などとマジメに受け答えしているので

「三郎!邪魔すんじゃねぇよ!こっちはこっちの話してんだからよぉ!ブタ!引っ込んでろ!」

「ウルセェ!ウマ〜。カタい話してんじゃねぇよ。バカヤロ〜」

と言いながら、ずうっと俺の腕を殴っている。アタマに来たので、ずいぶん前のブッチャー岡野の事を思い出し、スクッと立ち上がり
「いい加減にしろ!」と言って右の拳で思いっきり三郎の頭を殴った。ところが思惑と違い、三郎は何の反応も示さずに俺の右手だけに激痛が走った。佐々木は殴られた三郎より殴った俺が痛がっているのを観て不審に思いながらも

「スケさん大丈夫ですか?」

「痛テテ。捻挫でもしたかな?痛テテ」

「腫れてきましたよ。おしぼりで冷やした方がいいんじゃないですか?」

他の連中は、いつもの俺と三郎が始まったのかと気にも留めず、佐々木1人がオロオロしていた。

翌日近所のヤブ医者で診てもらうと、人の手だと思いやがって俺の右手をグリグリ押し回しながら

「大丈夫ですよ。捻挫でしょう。湿布しときましょう」
ときたもんだ。

「でも先生。あまりにも痛いんですよ。骨折してませんか?」

「あはは。そんなもんじゃ人間の骨は折れませんよ」

ヤブ医者の野郎は相手にしてくれなかった。
しかし痛みは取れず、腫れもヒドくなって来るので次の日も行くと

「大袈裟ですね。心配ならレントゲン撮っておきましょう。それで満足ですか?」

「お願いします。絶対に折れています!」

数分後、ヤブ医者の野郎がレントゲン写真を見ながら
「あれ?キレイに折れてるよ。しかもクッツキ始めているんで、ちゃんと直すんだったら手術しかないなぁ。どうします?」

「どうもこうもねぇだろぉ!だから折れてるかも知んねぇって言ったじゃねぇか!どうしてくれんだ!」

「どうもスミマセン」

小指の甲の部分の骨が音楽記号のナチュラルの型で固まっていた。手術は諦め、右手用のギブスを作ってもらった。
一応三郎に電話し

「俺さぁ、骨折してたんだけど三郎の頭は大丈夫か?」

「頭?なんの話?覚えてないし痛くも痒くもないよ。骨折?カラカッテンのかよ!このヤロー!」

話にならない。
数日後、渋谷LIVE INNでライブがあり、RHでのバンブーダンスの最中に着地に失敗!右足首を捻挫してしまった。急遽湿布をし、包帯でグルグル巻きに固定してライブはやったのだが、メンバーは右手にギブス、右足に包帯をしている俺に向かって

「虚弱だとは思っていたけど、運動神経は無いし骨はモロイわ、本当のクソジジイじゃねぇか!」
とメンバー全員にボロクソに言われる始末。そして佐々木は俺の哀れな姿をジッと見て

「スケさん。僕も忙しいので後輩の五反田という学生を紹介します」

と言った。音楽家生命の危機を感じたのだろう、生け贄を差し出し【おとぼけ】から逃げて行った。
そして俺は三郎の石頭を怨んだ。
んで、これはもしかすると『オレの事件簿』か?