楽器車「おとぼけ号」の悲劇!
その2
「他のバンドもこんな目に 
  遭っているのかなぁ?」

(文責・ボーン助谷)

おとぼけで初めて九州に行ったときの事である。福岡までいつもの様に楽器車で、当時飛び石の様にしか開通していなかった高速を乗り継ぎ、丸1日かけて真夏の福岡に着いた。ライブハウス「多夢」のマスター宅に泊めて戴き、その日は前乗りだったのでライブハウスの下見。「ロッカーズ」が出ていたような記憶がある。福岡で2軒のライブハウスに出演し佐世保まで足を延ばし、その間にプロモーションをするという1週間程のスケジュールだった。

1軒目は無事終わり、佐世保に向かったのだが行く途中、楽器車のスピードが出なくなった。アクセルの踏みシロが小さくなり平地で30km登りで10km位しか出なくなってしまった。当時は高速もなく、一般道での山越えが4,5カ所あった。途中工場で見てもらったのだが、修理に2〜3日かかると言われ「登り坂なんか皆で押せばいいんだよ」という安易な発想が運のツキ。思ったよりも坂がキツイ!坂の途中でエンジンの回転が上がらずストップ!炎天下皆で押し、下りになると「ヤッタァ!下りだ!皆乗れ!」ウキウキしながら鼻歌も出る。ノンキなものだ。しかしまた上り坂。これを何度か繰り返し《佐世保まで何km》の看板も出て来て最後の山越えだと思ってガンバったら、その先にはもう1つの山道が見えた。「もうダメだ」ヘトヘトのメンバーは協議の結果、引き返す事に決めた。近くの峠のドライブインから佐世保の店に電話をし、事情を話し、非礼を詫び、途方に暮れた。

「山越えりゃ佐世保なんだけどなぁ」
「また戻らなくちゃいけないのか。トホホ」
「もう一度エンジン見てみっか?」
「そうするか」

助手席を上げエンジンルームを覗くと、アクセルと連動しているワイヤーがある。引っ張ってみると今までとは大違い!回転数が桁違いに上がった。

「なぁんだ、コイツが緩んでたのか!手で引っ張れば楽勝だ!」
「けど福岡までエンジンルーム開けっ放しでワイヤー引っ張るのか?」
「交代でやれば平気さ!レッツ ゴー トゥー ザ 福岡!」

皆その気になって夕方の山道を帰路へと急いだ。しかし運転手の右足のアクセルワークを助手席で手動でやらなくてはいけない。勿論エンジン周辺は高温になっているので、ワイヤーを雑巾で掴みヤケドしないように気を付けながら引っ張るしかない。回転が上がれば熱風と排気ガスが一気に車中に充満する。勿論クーラーなんて言う贅沢品は取り付けていない。
それでも当時流行っていた「宇宙戦艦ヤマト」の乗務員になったつもりで

「2ndギアON!波動エンジン全開!」
「アイアイサー!波動エンジン全開!ギュィーン!」
「クラッチON!エンジン出力下げろ!」
「アイアイサー!ギュルルル!」
「3rdギアON!」

とか

「前方赤信号!エンジン停止!」
「アイアイサー!ブーン!」
「間もなく青信号!波動エンジン全開!」
「アイアイサー!波動エンジン全開!ギュィーン!」

などとワイヤーを引っ張り、動力班は順次交代し、大ハシャギしながら陽もトックに暮れた頃に福岡に着いた。さすがに全員汗ビッショリでクタクタ。排気ガスにセキ込みながらもシャワーを浴び、夜の屋台街へと繰り出して行った。修理に出すのは当然翌日。
オレは思った「他のバンドもこんな目に遭っているのかなぁ?」