三郎事件簿その2
「ハナチにならない!」

(文責・ボーン助谷)

香港レコーディング(1st Album)を終え、芝の郵便貯金会館(現:メルパルクホール)で発売記念コンサートを行なう事になった。ライブハウスでは不可能な大掛かりなショーにする為、色々とアイデアを出すやら外部の人間との打ち合わせするやらで、俺たちメンバーも無い頭を使うハメになっていた。キー坊が「宙づりでギターを弾きたい」「じゃあどうしよう?どの曲でやる?」とか、新たに曲を作ったり大幅にアレンジを変えたりと、てんやわんやの日々が続いていた。

事前のRHも順調に進み、当日会場入りすると、期待と不安が入り混じった良い緊張感が増して行った。PA、照明の仕込みも一段落し、各自の楽器をセッティングし終わりメンバーは客席に座り、出番が来る迄スタッフと段取りや進行の確認をしたりして時間を過ごしていた。

透のサウンドチェックが終わり、次の三郎はセンターに陣取り、いつもの様に音を出し始めていた。ミキサーとのやり取りが始まったその時、天井に吊ってある照明の金属で出来た色枠が1枚不意に落ちて来て「アッ!」っと思った瞬間には三郎の頭を直撃した。見ていなかったスタッフも「カツッ!」という音と、それが跳ねて床に落ちる音「パタン」を聞いて皆、音の方向にたった1人だけいる三郎を見た。何事も無かったかの様に三郎はベースを弾いている。「大丈夫か?」と見ていたメンバーがステージに昇ろうと思った瞬間「スイマセン!大丈夫ですか!」と言って照明スタッフがスッ飛んで来た。

「何が?」三郎はまだベースを弾いている。照明のスタッフはマッ青になって「申し訳ありません!大丈夫ですか!」

と金属製の落下物を拾いながら三郎の頭を心配した。

「大袈裟だなぁ〜。ちょっとぶつかっただけじゃねぇかよぉ〜」

まだベースを弾いている。

「本当にスイマセン!大丈夫ですか?あっ!頭から血が出てる!」

ヒタイに一筋の血がしたたり落ちていた。三郎はやっとベースを弾くのをやめ、頭とヒタイに手をやり出血を確認し、こう言った

「あっ!血だ!頭から血が出てアタマチイ世の中だ。目から血が出てメメッチイ。耳から血が出てミミッチイ。鼻から血が出てハナチにならない。ギャハハ」またベースを弾き始め、照明のスタッフを除いて全員大笑い。それでも「消毒しましょう。病院に行きましょう」と心配する照明スタッフに向かって三郎は

「バカ言ってんじゃねぇ!こんなもんツバ付けときゃ平気に決まってんだろが!ウルセェ!大袈裟なんだよ!」

と怒り始める始末。一応気を使ってメンバーも声を掛けたが

「ウルセェ!こんなんで大騒ぎすんじゃねぇ!バカ!」

と相手にしてもらえなかった。そしてRHは順調に進み、コンサートも無事終了。照明スタッフ以外、誰も三郎の頭のキズの事は忘れてしまい、打ち上げの宴へと進んで行った。

フト俺は思った「俺だったら死んでいたかもしれない」もしこんな事を三郎に言ったら「スケちゃん虚弱体質だからなぁ」といういつもの言葉が返ってきたハズである。